初めて名古屋御園座へ行った。
『桂文枝襲名披露公演』。
ご存知、前桂三枝さんの六代目桂文枝襲名披露公演。
周知の通りタレントとしての活動や創作落語を得意とする落語家「桂三枝」という名前は、すでに知らない人がいないくらい大きな名前だ。大名跡『文枝』と、ビッグネーム『三枝』。この橋渡しがどのように行われるのか大変興味があった。
ご本人は照れながら「やってることは、変わってないんですけどね。」と、その最重要ポイントは彼らしい言いまわしでサラリとかわされてしまった。
舞台袖に集まる客の視線を裏切って花道からピンスポで登場、他の噺家さんにはないキザで粋で独特な首の角度‥‥。それらを目の当たりにすると、空いてしまったビッグネーム「桂三枝」の方は誰も継げないんじゃないかな、とも思ってしまう。
その主役が登場する前の檜舞台は、差し詰め東西両海岸のジャズミュージシャンのセッションのようだった。客演と言ってよいのだろうか、関東の巨人ふたりと、それを迎え撃つ吉本100年の歴史を背負う上方勢。それぞれの演者のソロは凄まじく、前の奏者のフレーズを少し拾ってクイ気味に演奏に入る様は、まさしくジャムセッションそのものだ。特に関東の巨人ふたり。
立川志の輔さん。NHK「試してガッテン」でお馴染みの、文枝さんの向こうを張る創作落語の東の雄だ。「故立川談志の代理で参りました」と静かで謙虚な出だしから、絶妙な間と節まわしで瞬く間に観客を自分の世界に引き込んでいく。
かたや柳亭市馬さん。相撲呼びたしから相撲甚句、歌舞伎の台詞回しにいたるまで、よく通る美しい声。それに伴う色っぽい手の所作など、まさに保守本流。立川流重鎮と落語協会副会長。このふたりの絶妙なバランスだけでも面白い。
またその熱演はお祝いムードのかけらも無く、トリの文枝さんを喰う勢いだ。このあたりが芸事の厳しさと、相手に対するマナーなのだろう。
楽しかった。
どんなものでも本物はいつでも楽しく勉強になる。また、末広亭に行きたくなった。